京都府与謝郡与謝野町加悦、京都府北部の丹後地方、日本海に突き出るように広がる丹後半島の基部に位置し「丹後ちりめん」の産地として栄えた与謝野町の主要観光スポット。
「縮緬(ちりめん)」とは、主に呉服や風呂敷などに使われる絹を平織りにして作った織物で、縦糸には撚り(より)のない糸を使う一方、横糸には右回りにねじりをかけた右撚りと左回りにねじりをかけた左撚りの糸を交互に用いて織りこむことで、精練した後に布が縮み、生地の表面に「シボ」と呼ばれる凹凸、表面の独特の縮れを持つのが特徴で、高級絹織物として知られています。
「丹後ちりめん」は、江戸期以降に京都府の丹後地方を中心に生産されるようになったちりめんの総称で、江戸中期に絹屋佐平治らが京都の西陣より持ち帰った技術をもとに創作されたものがそのはじまりだといいます。
元々丹後国は古くより絹紬(きぬつむぎ)や丹後精好(たんごせいごう)と呼ばれる絹織物の生産地でしたが、京都の西陣にて「お召ちりめん」という新しい織物が開発されると、丹後の機業は衰退を余儀なくされたといいます。
同じ頃に丹後では大飢饉も発生し、丹後峰山町に住む絹屋佐平治(後の森田治郎兵衛)は人々の窮状を救うため、禅定寺の聖観世音菩薩に断食祈願し、京都西陣の機屋に奉公に出向いて修行を積むとともに織物の技法の研究を重ね、1720年(享保5年)、ついに独自のちりめんの秘法を会得し丹後へと持ち帰ります。
また時をほぼ同じくして現在の与謝野町加悦地区の木綿屋六右衛門も、加悦の手米屋小右衛門および三河内地区の山本屋佐兵衛を送り出し、1722年(享保7年)にその技術を持ち帰ります。
そしてちりめんの技術を習得した4人は、その技術を惜しみなく地域の人々に教えたことから、ちりめんは瞬く間に地域全体に広がり、元々が絹織物の産地であったことから丹後地方はちりめんの一大産地に。
とりわけ峰山藩は積極的な保護政策を取るなどその生産を奨励したことから、京丹後市の峰山町と網野町はその中心地となっていきます。
白生地で薄地の縮緬は他の地方の縮緬と比較するとしぼが細かく、友禅染め・小紋染めの生地として最適のものであり、高級織物としてもてはやされ、江戸時代から明治、大正、そして昭和初期にかけて隆盛を極めました。
現代に入り着物需要の低迷や安い海外製品との競争に押されて生産高は減ってはいるものの、近年は絹の持つ欠点を補う加工技術が積極的に導入されるなど品質の改良が続けられ、また新たな素材の使用や、洋装や小物などへの用途の拡大を図り、また京都府伝統工芸品として海外市場への販路拡大の取り組みなども行われています。
一方与謝野町の加悦・野田川・岩滝の一帯は、戦国時代に織田信長により丹後を与えられた細川藤孝(幽斎)の重臣・有吉立言(有吉将監 1528?-1583)が安良城の築城を開始した際、1580年(天正8年)から3年間かけて城下町として整備された地です。
有吉立言は築城から3年後に病没してしまったことから、城下町として機能していたのはわずかな期間でしたが、江戸中期からは丹後ちりめんを主力とした商工業の街として発展し、また明治から昭和にかけては丹後と京都を結ぶ縮緬流通の拠点としても栄え、その繁栄ぶりはちりめんの生産・流通で得た資金を元に道路や発電所、更には1926年(大正15年)には住民の出資で「加悦鉄道」が開業されるほどであったといいます。
そしてその「ちりめん街道」においては、町の近代化とともに明治から昭和初期にその時代の特徴を色濃く残す建物が多く建築されましたが、今でもその多くが住民たちの生活の場として利用され、大切に守られ続けています。
かつての隆盛を今に伝える白壁や格子窓の美しいちりめん商家の木造の町家や今も機音が響くちりめんの機織工場、郵便局や銀行、酒蔵、病院や、寺社仏閣、更には今は廃線となった加悦鉄道の旧駅舎や役場など、明治・大正・昭和とそれぞれの時代の建築がバランスよく残された美しい町並みは、2005年(平成17年)12月27日に「重要伝統的建造物群保存地区」にも選定され、景観の保護が図られています。
ちなみに「ちりめん街道」は1987年(昭和62年)に街並みを保存する活動が始まった頃から使用されるようになった名前だといい、旧加悦町役場庁舎から西山工場までの南北700mの旧街道に面した地域を差し、途中に4か所で鉤の手に折れ曲がるクランクがあるのが特徴です。
そして街道にある建物の中でも一番知られているのが、街道の中ほどに位置する大きな商家で、1865年(慶応元年)に棟上げされた歴史を有し、街道の象徴ともいえる「旧尾藤家住宅」で、街道の歴史の変遷を知るうえで非常に重要な遺構の一つで京都府指定有形文化財指定にも指定されています。
また行事としては地域最大の例祭「加悦谷祭」は祇園祭の流れを汲むともいわれる華やかな祭りで、町内一円で地区ごとに太刀振りや屋台の巡行、神楽舞などが披露されるほか、ちりめん街道のある加悦地区では街道を神輿が練り歩き、大いに賑わうほか、近年では街道の町並み保存に向けて様々な取り組みが行われていて、「きものでぶらり♪ちりめん街道」などのイベントも行われています。